高速表面張力測定によるドラッグプロファイリング

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リン脂質症誘導特性を予測

概要

リン脂質症とは

リン脂質症(PLD)は、細胞質内リン脂質との複合体あるいはリン脂質の代謝阻害で、細胞質内にリン脂質が蓄積し、ライソゾーム中に多層板構造物(lamellar bodies)が観察されることが特徴である。体内のあらゆる臓器や組織に発生する可能性があり、陽イオン性両親媒性構造を持つ多くの薬剤(Cationic Amphiphilic Drugs)により誘起される副作用として知られている。

リン脂質は、例えば肺、腎臓及び肝臓の細胞内に蓄積する。組織内でリン脂質が大量に蓄積すると、組織の通常の生理的機能に障害が生じる。特に薬剤が長期に亘って服用される場合には、より大量のリン脂質が細胞内に蓄積し得るため、問題となり易い。その結果、更に慢性的で不可逆のリン脂質症や臓器不全に至る可能性がある。臨床症状としては、高脂血症、血栓症、網膜障害等が起こる場合がある。

なぜ一部の薬剤でリン脂質症が引き起こされるのか?

薬剤がリン脂質症を引き起こすには:

  1. 細胞に侵入
  2. リソソーム内で濃縮
    • 酸性度定数の高さは陽イオン性両親媒性構造を持つ薬剤がリソソーム内に蓄積することを助長。
  3. lysosomal phospholipases(リン脂質分解酵素)を抑制:
    • lysosomal phospholipases抑制のメカニズム
      • リン脂質分解酵素の量が減少しない
      • アニオン性リン脂質はlysosomal phospholipasesのアクティベーター
      • 薬剤-脂質の複合体形成はアニオン性脂質を除去し、活性化を阻害?

なぜリン脂質症を引き起す薬剤のスクリーニングが必要か?

  1. リン脂質症が何らかの副作用と関連しているか定かではない
  2. リン脂質症を引き起こす化合物(アミオダロンやゲンタマイシン)はしばしば毒性が強いものの一般的に毒性とリン脂質症の関連が解明されていない
  3. 2004: FDA "Phospholipidosis Working Group" によりスクリーニングが推奨されている
  4. 製薬企業の研究所により既にいくつかのスクリーニング法が2003年から2008年にかけて発表されている

仮説と合理性

  • 薬剤やアニオン性リン脂質による複合体形成はリン脂質症の誘発と相互関係がある。
  • 複合体形成はアニオン性リン脂質のCMC(臨界ミセル濃度)を薬剤が不在及び存在するときに測定をすることで評価することができる。
  • CMC比 = (薬剤が存在する際のCMC / 薬剤が不在の際のCMC) はリン脂質症の誘発と相互関係がある。>>薬剤が存在する際のCMC の降下が薬剤-脂質の複合体形成のメジャーとなる。

今までのリン脂質症の予測

動物実験等が行われている。ただしリン脂質症を引き起こす薬剤を動物に用い、退行性の変化や所見(組織障害の変化)が観察されるのは、長期間にわたって投与したときであるため、迅速に行え、精度の高いスクリーニングが望まれる。

現在市販されているいくつかの薬(マクロライド系抗生物質、抗精神薬など)では、動物で本症の所見が発現し、臨床の場でも本症を引き起こす場合があるとされている。特にこれが薬剤の発売後に明らかになった場合には、市場から薬剤を回収する必要が生じるため、医薬品メーカーにとっては深刻かつ費用のかかる問題になる。

予測の手法

臨界ミセル濃度(CMC)

物質を添加する前のアニオン性界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)と比較して、物質の添加により臨界ミセル濃度(CMC)が低下した場合に、物質がリン脂質症誘導特性を呈するリスクがあると判断する。同様の手法で医薬品、薬剤、医薬品添加物又は食品添加物等の物質の、吸収・分布・代謝・排泄に関する毒性(ADME-tox)の測定も行うことができる。この方法により薬剤のリン脂質症誘導特性又はリン脂質形(phospholipidogenic)特性(細胞内でのリン脂質の蓄積)等の薬剤によって誘導されるリン脂質症を予測することができる。

臨界ミセル濃度(CMC)を調べる方法は蛍光分析、光散乱、超音波吸収、伝導率、接触角、及び表面張力又は表面圧力測定がある。化合物の疎水性は、一般にオクタノール/水の二相系における分配係数(logP)を測定することにより決定される。両親媒性及び洗浄特性は一般に、物質が水の表面張力に与える影響を測定することにより決定される。


化合物の脂質への結合

リン脂質症を最も引き起こしやすい化合物は、カチオン性かつ両親媒性であり、しばしばCAD(カチオン性両親媒性薬剤)と称される。一般に、これらの薬剤がリン脂質と複合体を形成してリン脂質分解酵素の機能を阻害し、分解が阻害されると共に合成が強化されることによりリソソーム内でリン脂質が蓄積する、というのがリン脂質症の根底にあるメカニズムであるとされている。

このような理由から、潜在的に有用な化合物の脂質への結合を評価する方法が必要とされている。添加される物質が界面活性剤の表面活性特性、特に臨界ミセル濃度(CMC)、に与える影響を調べることで、物質のアニオン性界面活性剤(リン脂質)との相互作用を評価する。

測定の実際

表面圧と濃度

測定した表面圧力πと、無単位の(mol/Lで割った)濃度の自然対数ln(c/M)との関係を示すプロットの2例。純DC8PS(1,2ジオクタノイル-sn-グリセロ-3-[ホスフォ-L-セリン])(□:白四角)と、ゲンタマイシン:DC8PS=1:10(●:黒丸)。鎖線と矢印とは、臨界ミセル濃度(CMC)を得る原理を概略的に示す。

PLD図1.gif

脂質比

臨界ミセル濃度(CMC)と薬剤:脂質比との関係を示す曲線。クロザピン(■:黒四角)、ハロペリドール(O:アルファベットの「オー」)、1-フェニルピペラジン(▼:黒三角)、クロルプロマジン(■:薄い黒四角)、プロマジン(○:実線の丸)、プロプラノロール(▼:薄い黒三角)、アミオダロン(□:灰色四角)、ゲンタマイシン(○:破線の丸)、ペルヘキシリン(▽:灰色三角)。

PLD図2.gif

PLDインデックス

ヒトにおいて実際にリン脂質症の原因となったことが知られるグループ(■:黒四角)、リン脂質症の可能性のないグループ(O:アルファベットの「オー」)、動物においてリン脂質症の原因となることが知られるグループ(▼:黒三角)、動物においてリン脂質症の可能性はないが培養細胞では可能性があると出たグループ(▲:黒三角)

CMC比 = (薬剤が存在する際のCMC / 薬剤が不在の際のCMC) と他の試験結果での相関が見られる。

PLD図3.gif


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